《着物リサイクル春夏秋冬》第212回 貴重な体験した留学生は大きな戦力

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《着物リサイクル春夏秋冬》第212回 貴重な体験した留学生は大きな戦力

2018年05月07日

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中古着物を販売するたんす屋社長の中村健一氏が、自社の取り組みなどから中古着物業界について切る、本紙連載企画「着物春夏秋冬」。

26435dc35930f8efcbe9ed6852abfd95e491ae12.jpg◀東京山喜 (店名・たんす屋) 中村 健一 社長
1954年9月京都生まれ。77年 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校留学、79年 慶応義塾大学卒業。同年東京山喜入社、87年 取締役京都支店長、91年 常務、93年 社長に就任、今に至る。


着物リサイクル春夏秋冬
~第212回 上海逆求人~

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▲上海逆求人企画で学生達と面接

貴重な体験した留学生は大きな戦力 留学中の学生に上海で面接

3月24日~26日の三日間、上海に出張した。目的は逆求人である。 
逆求人とは、ジースタイラスという会社の企画名だ。具体的な内容は、中国にいる日本人留学生を上海で面接して、新卒採用に役立てようというものである。

最近の留学生数の推移を見ると、日本に留学する学生数は増加傾向が鮮明である。「独立行政法人日本学生支援機構」によると、2017年5月時点で26万7042人、前年比プラス2万7755人で11.6%の増加
一方で海外に留学する日本人学生は、緩やかながら減少傾向にあるようだ。OECD等による統計では、2015年は5万4676人で前年比マイナス236人、0.4%のマイナスである。

国際化が進むと言われるようになって久しいが、この数字を見ると少し残念な気がする。考えようによっては、日本人学生が海外留学する5倍近い外国人留学生が日本留学している事になり、日本が多くの外国人留学生に魅力的な国だと言えるかもしれない。

留学生ならではの就活の悩み

一方で、海外留学する日本人学生には、就職に関して悩みがあるようだ。ひとつは、海外の大学の卒業時期が6月で、多くの日本企業の採用時期とずれている事。もう一つは、度々来日して就活するための、コストと時間がかかる事である。

ジースタイラスの逆求人の企画は、この様な悩みを持った中国に留学する日本人学生を、上海に集めて企業の採用担当者とマッチングすることである。さらに、日本企業に就職を希望する中国人学生もこの企画に参加している。つまり、中国に留学中の日本人学生と日本企業に就職したい中国人学生に一度に会社説明をして、面接をできるという企画である。

この企画で私は、インターンシップで研修中の森さんという中国留学中の日本人学生に、ジースタイラスの営業を受けて上海に行くことを決めた。森さんは上海交通大学の4年生で、今年6月に卒業予定。日本での就職を希望している。中国上海での4年間の留学経験は、中国語を学んだ以外にも多くの貴重な体験をされた様に感じた。
GNPで日本の2.2倍に急成長した隣国中国を、近い将来の我々の市場と考えた時、彼女たちの様に中国の留学経験を持った日本人学生や、日本文化に興味を持って日本語を学ぶ中国人学生は、貴重な戦力になってくれると感じた。

ほとんどの学生がトリリンガル

実際に現地に行って20数名の学生と面接をした。約7割が日本人留学生、残りが日本企業に就職を希望する中国人学生だ。先ず感じたことは、彼ら彼女らは自分の売り込みが非常に上手である。

多くの学生は短期で英語圏にも留学を経験しており、ほとんどの学生は日本語、中国語、英語のトリリンガルである。毎年、香港大学から受け入れている夏場のインターンシップの大学生も、ほぼ全員がイギリスへの留学経験があり、北京語、広東語、英語、日本語を巧みに使いこなし、更に着物に興味を持ってくれている。

次にとても嬉しく感じたことは、日本文化に非常に好意的なことだ。海外に留学することで、より明確に自国の文化に興味と好意を深める様になって行く様に思う。又、中国人学生の間でも、日本文化に興味を持つ人の割合が高いことに驚いた。日本文化に興味を持ったきっかけを聞くと、多くの場合がアニメやテレビドラマである。若者層の与えるサブカルチャーやポップカルチャーのパワーはすごいものがある。

スタバも日中関係象徴

もう一つ、昨年10月に上海に来た時になかったものが、スターバックスのラグジュアリー店「スターバックス・リザーブ・ロースタリー」である。このタイプのお店は、シアトルに次いで世界で2店舗目だ。世界最大級の広さ、2700平方メートルの店内は高級ホテルのラウンジのような贅沢な空間で、銅製の巨大なコーヒーの焙煎機(二階建の高さ)で焙煎されたコーヒーを始め、様々なお茶だけでなく、ビール、ワインも楽しめる。日本には、今年12月、中目黒で隈研吾さんのデザインでオープン予定と聞いたが、上海に1年先を越されるとは、今の日本と中国の状況を象徴する様な出来事である。

30年前の1989年から10年間、上海からほど近い江蘇省蘇州市で、「蘇州東京山喜有限公司」を合弁で設立し、着物や帯を生産していた時代を考えると、今の中国の発展は想像をはるかに超えるすごいものだ。
絹の価格と人件費の安さが魅力で、工場経営をかつてしていた中国が、近い将来我々にとって魅力的な市場になる。そう思い今回の上海逆求人に参加した。
この企画で縁あって弊社に入社してくれる若者が、日本文化と着物文化の魅力を中国の人々に伝え、それを具体的なビジネスに仕上げていくプロセスで大いに活躍してくれることを期待しているが、いかがだろうか。

第438号(2018/04/25発行)16面

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