《皮革製品修復ラボ(19)》「暗い汚い」が「マイスター」に変わった

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《皮革製品修復ラボ(19)》「暗い汚い」が「マイスター」に変わった

2014年06月15日

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皮革製品 修復ラボLesson.19 ブランディングの重要性

美を追求する番組で紹介される

先日、テレビ朝日の番組「ビューTV VOCE(ヴォーチェ)」の撮影があり、モデルで女優の水原希子さんが来店された。これまでにもメディアに何度か出ているが、今回はちょっとワケが違う。特筆したいのは『美を追求する番組』で、革製品のメンテナンス店である美靴工房が紹介されたことだ。

一昔前は、靴やバッグのメンテナンスと言えばおじさんがする仕事だった。はっきり言えば暗く汚く、いいイメージの仕事ではなかった。それがこの10年でイメージが向上し、セレブや著名人が来店するようになり、とうとう美がテーマの番組で取り上げられるまでになった。

この10年でいったい何があったのか、それを紹介してみたいと思う。イメージやブランディングが課題のリユース業界にとっても役に立つ情報になると思う。

10年くらい前に「ユニオンワークス」という会社が靴の修理をファッションとして紹介しはじめたのが大きなきっかけだったと思う。店構えはイギリスの名店を思わせる佇まい。施術者はかっこいいつなぎを着たり、シューシャイン(靴磨き) もワイシャツをきっちり着こなした男性が手掛けるというような具合だ。

ファッション誌でとりあげられるようになると、「靴を手入れしながらはくのは感度の高い男性の嗜み」という風潮をつくりあげたのだ。施術者は技術力を誇る「マイスター」として見られるようになった。今でもこの会社の社長は靴修理業界の巨匠と呼ばれている。

さて我が美靴工房も意識したわけではないが、ユニオンワークスにははるかに及ぶものではないが、このレディース版となった。

当店の施術者は全て女性だ。細やかな作業は女性の方が得意であることと、自分の持ち物を小汚い男より繊細な女性に触ってほしいという女性客の心理に配慮したためだ。そして彼女らに「白衣」を着せた。この理由は2つある。ひとつは医者に対してがそうであるように、白衣を着た人には「さからえない」から。女性は男性と比べてなめられることも多い。だから白衣を着せることで権威づけた。

もうひとつの理由はセンスを消すため。ファッションには個人の志向が出る。参考にしたのは美容室だ。お客は自分の好きなスタイリングの美容室を選ぶ。美容室は美容師のファッションや内装、置いてある雑誌で客層が決まるのだ。当店は幅広い客層に来てほしかったので、白衣でファッションの個性を消して研究所のように「専門性」を前に出した。

実は初めはスタッフに「暑い」やら「趣味を押し付けるな」やら文句をさんざん言われた。しかし、無理やり着せている内にお客さんの反応を見て、納得していってくれた。先にも述べたように、今では美靴工房には多くのセレブたちが来店してくれるようになった。

ヴォーチェではヴィンテージが好きだという水原さんのバッグをメンテナンスし、施術者との対談を行った。2ヵ月間雑誌でも連載するんだそうだ。

技術力はもちろんだが、いかにイメージづくりが大事か分かってもらえたと思う。

今やセレブは換金目的の買取りは恥ずかしいが、メンテに行くのは当たり前のこととしてとらえている。だからセレブ層の来店を促すために、リユース店がメンテという入口を設けるのが有効だと考えている。

さて、また次号からは「健康診断」シリーズの続きを紹介する。

川口 明人氏≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

345号(2014/06/10発行)8面

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