《皮革製品修復ラボ(09)》エルメスブルージーン水色なのに『赤』必要

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《皮革製品修復ラボ(09)》エルメスブルージーン水色なのに『赤』必要

2013年06月30日

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皮革製品 修復ラボLesson.09 カラーリング

5~8色混ぜて1色つくることも

さあ、前処理と皮革クリーニング。乾燥まで済んだのでいよいよリカラーリング(色補修) に入る。

依頼客からのヒアリングにより決定したレシピ通りに仕上げよう。お客様の要望は様々で、全員が「ほぼ新品時に近づけてほしい」と考えているわけではない。「使い込んだ今の状態で風合いを変えず、傷やシミだけ消してほしい」「金具周りの手垢と角部分だけをキレイに修復してほしい」というオーダーもある。ちなみにリサイクルショップからは「ユーズドとして再販するので売れやすいように。おまかせします」と依頼されてしまうこともあって、それを汲み取るのが一番難しい... (苦笑)。

さて、使用する資材は以下のものだ。

染料あるいは顔料・つや出し剤・つや消し剤・バインダー(下地剤) や浸透剤・刷毛・水など。今回は「水性樹脂顔料」を用いバッグの色補修するケースを例にとり解説する。

①顔料の調色

まずはオリジナル色を、バッグの日焼けや摩擦の無い部分から探す。それに合わせて顔料を混ぜ合わせ色とニュアンス、彩度や明度を「ドンピシャ」に合わせる。5~8色の顔料をあわせて1色をつくりあげるケースも多々ある。例えばエルメスのブルージーンはどこから見ても水色なのに、実は赤を混ぜないと色が完成しない。難しいが、色の特性や混ぜ方を勉強すれば一定水準以上に訓練でできるようになる。

②質感と下準備

テカテカした素材ならつや出し剤を。落ち着いた素材ならつや消し剤を投入。染込みにくかったりくいつきにくい素材なら、バインダーや浸透剤も入れる。

③染色する

金具やステッチにマスキングテープをはり顔料を施していく。傷には濃い目、境目はボカシで薄めになるよう水を混ぜて顔料の濃度を調整する。仕上がりを決める大きなポイントは「刷毛のテクニック」だ。塗るのではなく、掃く要領で。不要な顔料水は刷毛に吸わせ、必要な分だけを染込ませて定着させる。繊細なハンドワークだ。

④乾燥

基本的には自然乾燥で。モノにもよるが1~2時間から、半日程度で乾く。染色中に、キズを補修してその後全体の染色もしたい場合などは、ドライヤーをつかって強制乾燥しながら進める場合もある。

⑤ディティール

境目のボカシや色ムラ、風合いムラが無ければマスキングを剥がして持ち手やストラップなどディティールも同様の作業を行う。

⑥検品

作業者自身が室内と外の自然光で見た目をチェック。その後別の検品担当者の目もつかって二重検品する。湿った布でこすったり、靴の甲など使用時に動く箇所は動かしてみて、顔料がとれたり割れたりしないか剥離テストも行う。問題無ければ完成だ。

オリジナルカラー再現を
留意してほしいのは「見栄え価値を上げる」修復は、原則として新たな色に染め替えるのではなく、オリジナルカラーに戻すということだ。例えばリサイクル店が違う色に変えてブランドバッグを販売することは、商標権侵害に抵触する可能性があるので要注意だ。

川口 明人氏≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

322号(2013/06/25発行)4面

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