《皮革製品修復ラボ(08)》芯地に水分入らぬよう泡で汚れを浮かす

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《皮革製品修復ラボ(08)》芯地に水分入らぬよう泡で汚れを浮かす

2013年05月25日

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皮革製品 修復ラボLesson.08 クリーニング

水や溶剤に浸す丸洗いは絶対NG!

先日、あるお客様がCHANELのカンボンラインでピンク色のウォレット(長財布) をお持ちになり「手垢で汚れてきたので、ショッピングの際レジで何となく出しにくくなってきたからそろそろかしら...」とおっしゃる。

1年半使用したそうで、機能的には全く問題ない。ましてや一流品なのでそれなりの耐久性もある。まだ消費しきっていないのに、「そろそろ」捨てようか、売ろうかと考えているわけだ。

革製品のバッグや財布や靴は、使い慣れ一番こなれたピークの時期に消費期限を迎えるという矛盾を抱えている。これを解決するのがクリーニング(洗浄・補色) だ。

さて、スポット汚れやキズ処理の学習を前回済ませたので、今回は「HERMESバーキン30トゴエタン金具シルバー」をつかって、クリーニングの作業シュミレーションをしてみよう。

泡で汚れを浮かす泡で汚れを浮かす

①汚れを浮かせる

前処理(前回学習済) が正しくされているかをチェック。芯地まで水を染み込ませることなく表面洗浄していく。特殊調合した洗剤と柔らかいブラシを用いて泡立て、フェイスクレンジングの要領で汚れを浮かしていく。「水で濡らすのではなく、泡で汚れを浮かす」イメージで。この際、水と洗剤が芯地まで入り込まぬ濡らし方とスピードが要求される。時間でいうと数十秒程度で、経験が問われる技術だ。

②すすぐ

水をかけるのではなく、羊毛油の混ざった専用水を少量。やはりブラシで掃くようにすすぐ。これで養分補充も万全だ。工程の終わりに濡れタオルで洗剤分を完全に取り除く。

③拭き取る

乾いた柔らかい布で包む。「お風呂上りの赤ちゃんを扱うように」優しく水分をとる。

洗浄が足りない場合は、①~③を数回繰り返す。この時水量には厳重注意だ。洗浄しなくても、丁寧に拭き取ればキレイになることが多い。

④乾かす

中に紙や型を入れ中まで十分に乾かす。自然乾燥なら、日陰で風通しのよいところで丸一日は必要だ。当社の場合は、オリジナルで開発した「乾燥ボックス」を使っている。40℃の空気が対流し、歪みやシワもとって成型しながら乾燥することができる機械だ。さらにオゾンの発生装置もつけているため、脱臭や除菌も行える。

革製品の乾燥に適している温度は、40~42℃。高すぎると革が縮むので注意しよう。

クリーニングの際には、くれぐれも水や溶剤に浸す丸洗いはしないように!型くずれや縮み、色泣き(染料が薄い方に移行し汚れること) の原因になる。

クリーニングが終わると、洗顔後のスッピン状態になる。次回は、メイン作業のリカラー リング(色補修) の工程に入ろう。

川口 明人氏≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

320号(2015/05/25発行)5面

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