《皮革製品修復ラボ(42)》フリマアプリでは評価されている

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《皮革製品修復ラボ(42)》フリマアプリでは評価されている

2016年10月25日

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皮革製品 修復ラボLesson.42 オピニオン

手を入れると本当に価値が無くなるの?

当店のお客さんが憤慨していたことがある。

あるブランドの直営店で購入したファスナーのスライダーが抜けたので自分でつけ直した。使っている内に自分で直せないような箇所が壊れたので今度はブランドに持って行った。すると、「この商品は当店ではお受けできません」と断られてしまったと言う。大切に使おうと自分で直したら、悪い事のように言われて大変気分を害したということだった。

サスティナブルな世界が社会全体で求められる昨今、こういう話に出くわすと、いつまでも「手を入れるとNG」という風潮はいかがなものかと社内で話す。

今回は少し趣向を変えて、ここからは当社のトップ技術者の保科美幸のオピニオンを紹介させてもらいたいと思う。ちょっとだけ耳を傾けてみてほしい。

OPINION

美靴工房 保科美幸「はじめまして。革製品の修理を14年間手掛けている保科です。当工房では年間5000~6000点の商品をお預かりして修理をさせと言ってたくさんのお客さんが来店されます。長く大事に使いたいと思っているからです」

高級なものは、たいがいメンテナンスが必須です。例えば車なら、キズも凹みも修理しますよね。中古として買取りに出す時には、走行距離やメーカーなどが同じな ら、ボコボコの車よりも修理済の車の方が評価され、高く売ることができると思います」

しかし、ブランドバッグは違います。手を入れるとブランド価値が無くなるという風潮があります」「そのため、ブランドリユース店の中にも色入れに抵抗がある事業者さんがいらっしゃいます」「最近は特に、修理に関して市場がうるさくなったという声も聞きます」「一度でも、消費者 にヒアリングしてみたことがあるでしょうか?ぜひ一度、消費者の声を聞いてみてほしいです」

「ブランドリユース市場はモノ不足だと聞きます。しかし、うちと取引きのあるブランドリユース店さんの中には、お客さんからメンテ依頼を受けたり、メンテ済み商品をきちんとそれと表記して販売し繁盛しているところがあります」「メンテ済みの中古品は、新品より安くて他の中古よりキレイというお得な商品です」

「フリマアプリでは、『キズがありますがメンテ済みです』『クリーニング済みです』というのが付加価値となって個人間で売買されています」「モノが売れない時代、メンテやアフターが売り 方やビジネスモデルも変えていくのではないでしょうか」「ただし、『いかにも塗りました』というような技術力の無い修理業者がいるのも事実です。むしろ、そういう業者がメンテ=悪行とい う風潮をつくりだしている一因かもしれません」「長く大事に使うお手伝いをする。それは価値があることだという考え方を発信し続けたいと思っています」

もちろん、中古ブランド市場に繊細な事情があることは理解している。ただ末端のお客さんと接する技術者はこう感じているということを紹介し、中古ブランド市場の皆さんに問い かけてみたかった。個人間売買が盛んになってきた今、ブランドの意思とは関係なく消費者は自分の価値観でモノを売買するようになる。空気が変わるかもしれない。

川口 明人氏
≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

402号(2016/10/25発行)5面

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