《骨董買取の技法10》象牙の食品サンプル!?

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《骨董買取の技法10》象牙の食品サンプル!?

2016年04月10日

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骨董買取の技法 タイトル

骨董買取の技法 第10回

某オークションで数百万円で落札

中国人のインバウンドが吹き荒れた骨董品美術業界ですが、それでは日本の商材はどうでしょうか?勿論デフレ基調の経済のなか骨董品も例外ではなく下落傾向で、またコレクターの高齢化による放出も、それに拍車をかけています。しかし価値を保っている分野のひとつに、明治時代の工芸品があります。これは、江戸時代の終わりと共に職を失った刀職人たちが新たに華を咲かせました。どれも細密で精緻な作品で様々な技法が用いられています。それらが近年再評価され、各分野を代表する作家たちの作品は大変な価格で取引されています。そしてその多くが帝室技芸員(戦前の日本で宮内省によって運営されていた美術家や工芸家の顕彰制度) に認定され、パリ万博などの万国博覧会へ出品されています。

野原貞明の作品。象牙や貝、べっ甲などで大根が精緻に表現されている野原貞明の作品。象牙や貝、べっ甲などで大根が精緻に表現されている

上の写真で紹介する木工作家、野原貞明は、木地を生かした木象嵌で素晴らしい作品を残しています。この作品もそうですが、当時の作品の多くは、アール・ヌーヴォー(19~20世紀初頭欧州中心に開花した美術運動) の影響を受けています。

例えば、彫金の分野では、加納夏雄という彫金の作家がいました。加納夏雄は、元々は刀装具を制作する職人でした。金貨や銀貨の原型を造ったことでも有名です。1876年の廃刀令で、刀装具・花瓶・置物・喫煙具などの製作に変換していきます。加納夏雄の作品は、大きなものが出てくることはほぼ皆無です。出てくるとしたら、煙管などの喫煙具が多いです。しかし煙管といっても馬鹿には出来ず、1点数百万円で取引されます

水戸彫金を代表する作家としてあげられるのは、海野勝珉。水戸彫金は著名な作家をかなり輩出しています。その中でも海野勝珉は別格で、作品が出てくると数百万円から数千万円での取引になります。皇室などの紋章の入った、銀製の花器を扱った経験はないでしょうか?例えば「宮本製」など通常のものであれば、1点20~30万円ぐらいの取引になると思います。しかし海野勝珉であれば、数百万円、若しくは千万円オーバーです。

贈答品の買取をすると、結構な確率で「七宝」のものが混じります。その中で、安藤七宝というメーカーを扱ったことはないですか?この安藤七宝も明治時代の創業でそれから、七宝の製品を生産しています。この七宝も彫金と並び、明治工芸の華です。代表的な作家は、有線七宝で並河靖之、無線七宝では涛川惣助などです。これらは小品でも数百万円で取引されています。

陶器分野で、著名なのは真葛香山です。置物のような蟹が壺に貼りついた作品を本などで、見たことないでしょうか?別の作品では、翡翠の鼠などの動物が立体的に表現されています。古い旧家などの片づけをすると、「真葛」と描かれた置物や、箱に入った壺などを良く見かけます。結構、あるので注意が必要です。前述した立体的な作品は特に高価です。

また、象牙や木彫などの細密彫刻も高値で取引されています。なかでも安藤緑山は、蜜柑・柿・茄子・貝など日常的なモチーフを用い、今でいう食品サンプルのような写実的な作品を多数残しました。それらは一見しただけでは、まず象牙だとわかりません。先日某オークションで出品されていましたが、競り上がり数百万円で落札されていました。このように明治時代の工芸品には、思いがけない高値のつくものがひそんでいます。

藤生 洋藤生 洋

<プロフィール>
昭和42年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、ロッテの財務部で勤務。サラリーマン時代から骨董市に通う。歴史好きが高じて平成11年、31歳で起業。ネットオークションや骨董市で骨董品の販売をはじめる。平成13年には「(有)北山美術」に改称。平成24年には骨董の業者間オークション「弥生会」を3社共同で立ち上げ、会員数200社の規模に拡大する。現在は店舗と事務所を東京・千葉・札幌に展開している。骨董店での修行無しに独自に事業を軌道に乗せた手腕が話題になり、 2冊の著書を上梓。

389号(2016/04/10発行) 5面

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