競りは戦い、「槍突き」「鉄砲」怒号飛び交う

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競りは戦い、「槍突き」「鉄砲」怒号飛び交う

2019年11月05日

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ブランド市場バイヤーに学べ

第62回 よく聞く"ヤリツキ"ってどういう意味?

槍突きに鉄砲、競りはまさに戦場

つい先日、古物市場に参加して間もない方から、「一番驚いたのは、皆さんの声。あんなに大きな声で競り合っていてびっくりした」と聞きました。古物市場に参加したことがある人ならお分かりだと思いますが、競りの最中は買い手同士の怒号(怒ってはいませんが)が飛び交うような喧騒に包まれています。まだ参加したことがない人は、東京都中央卸売市場(豊洲)の競りをイメージしてみてください。

皆が大きな声を出すのは、もちろん振り手へアピールするためですが、そもそも入札値を発することを"ヤリをつく"と表すように、競りは戦いであるという認識が強いからかもしれません。昔、私が古物市場の諸先輩方に聞いた話では、ヤリつきは漢字に直すと「槍突き」で、これは獲物を倒すための槍になぞらえているそうです。古物市場でねらいの商材を競り落とすことは、まさに獲物を槍で倒すことというわけですね。

そう考えると、以前にこのコラムで「競りはできるだけ一本ヤリで落札しましょう」とお話したことも、「何手もかけて獲物を倒すよりも、一撃で仕留めた方が効率的」という意味に捉えられなくもなさそうです。戦場では、仕留め損ねたら二度目の槍は突けないかもしれませんから。また、発声が遅い=遅い槍突きが良しとされないのは「一瞬の判断の遅れが命取りになる」からでしょうか。

槍突き以外にも戦場の言葉を由来にしている市場用語は他にもあるようです。例えば、指値に届かないときは「てっぽう」と呼び、出品が流れることがありますが、これも文字どおり「鉄砲」からきているそうですよ(なぜ鉄砲と呼ぶのか、はっきりと分からないので、ご存知の方がいたらぜひ教えてください)。

このように競り=戦場と考えれば、各々が大きな声を張って、シノギを削りあうのも納得がゆく気がしませんか。市場に参加したての頃は周囲に気後れしてしまうかもしれませんが、強い気持ちで臨んで力強い発声を心がけてくださったらと思います。

余談ですが、こうした声を張った槍突きとは異なる「手槍(テヤリ)」と呼ばれる入札の仕方があります。声を出さずに、手で入札値を示す方法ですが、こちらはあまりおすすめしません。これは振り手にだけ値段を伝えるやり方で、競り合っている周囲の買い手には分からないためためです。周囲の買い手にとっては、誰がこの競りに参加していて、いまいくらで入札されてるか、そういった進行状況が分からないと、競りが滞ってしまったり後々トラブルになる可能性だってあります。古物市場は自分さえ買えればよいのではなく、参加者みんなで作るものですから、ぜひ気持ち良い戦い方を目指しましょう!


齋藤清 氏<Profile>
齋藤 清(さいとう きよし)
株式会社アールケイエンタープライズ・執行役員 兼 オークション事業本部 本部長 グローバルトレードと共催する「RKグローバルオークション」のオークショニアを務めるとともに、日本国内はもとより海外でも買い付けを行う敏腕バイヤー。ブランド品リユース業界歴は20年余り。ゴルフとお酒を愛する憎めない人柄で、業界関係者との人脈も深い。

第474号(2019/10/25発行)13面

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