《皮革製品修復ラボ(39)》日本人はとにかく「状態」が重要

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《皮革製品修復ラボ(39)》日本人はとにかく「状態」が重要

2016年07月25日

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皮革製品 修復ラボLesson.39 革との付き合い方

エイジング楽しむヨーロッパ

日本人とヨーロッパ人は革製品との付き合い方が全く違う。それゆえに、革製品のメンテナンス事業が成長できたのだと思う。

まずヨーロッパには、革製品との慣れ親しみ方が2種類ある。

ひとつは、親から子へ。子から孫へと高級品を引き継いでいくケース。色の変化や艶の出方など、その人と共に過ごしてきたエイジングを感じ楽しむ。

もうひとつは、セレブの世界に目を向けてみると顕著に分かる。世界の一流ブランドは毎年新作を発表する。セレブはそれを1年後や2年後に持つことを恥ずかしいと感じている。 イギリスの影響が色濃い香港マーケットにおいても、セレブはパーティーで使用したバッグを二度と持つことはないそうだ。

このように、定番で長く使い継ぐものと、コレクションテーマによる新作は別物として付き合っている。

Point!ヨーロッパ

①おばあちゃんから引き継ぐ上質な革製品は、エイジングを楽しむ。

②セレブは、一流ブランドのコレクションの新作を毎年買う。翌年には使わない。ヨーロッパは革製品との慣れ親み方に2パターンがある。

そして、これをごっちゃにしているのが日本市場だと思う。日本人はとにかくダメージを嫌う。小キズがつけば商品価値が無くなった気がしてショックを受ける。

定番ものなのか、いつ発表されたものなのかよりも「状態」で価値が決まる。

ブランドリサイクル店の買取りにおいても状態は重視されるから、なおさらその価値観は強くなるのだろう。

なにせ、高額で手が届かなかったブランド品を、庶民の手にも届くようにして日本に定着させたのがリサイクル店なのだから。

さて、日本人―――、とりわけ女性は革製品のエイジングということ自体に価値を感じていない人が多い。

例えばルイ・ヴィトンはもともと旅行かばん店なので、代表作のモノグラムは実用本位でタフなつくりをしている。タイタニック号から引き上げられた鞄の中が、濡れていなかったという逸話すらある。

ポリ塩化ビニールをコーティングしている鞄全体はもちろんのこと、ヌメ革の部分も本来なら汚れようが、シミになろうがかまわない。変色して最後にはアメ色になるまで使うものである。

しかし、日本人はどうしても状態にシビアだ。リサイクル店も、汚れやキズを減点対象にする。だからこそ、私たちのような技術者や事業者が存在できる。 ここが日本じゃなかったら、私は美靴工房を開くことはなかっただろう。また、日本から伝播するかたちで、多くのアジア諸国でも似たような価値観が根付きつつある。

(個人的には、革製品の見た目を気にしながら使うよりも、使い込んだ上質なものを持っている女性は素敵だと思うけれど...)

Point!日本

キズや汚れ、ダメージがとにかく嫌いなのが日本人。いつ発表されたかよりも、状態を重視する。特に女性はエイジングに価値を感じない人が多い。

川口 明人氏
≪筆者 Profile≫ 川口 明人氏

1960年、神奈川県生まれ。根っからの靴、バッグ好き。大学卒業後ヨーロッパに渡りフランスのシューズブランドに就職。帰国後は婦人靴ブランドのマネージャー、ブランドバッグ販売責任者、婦人靴メーカー商品企画・製造責任者などを歴任。皮革製品修復の「美靴工房」立ち上げに参画。現在は同社の専務取締役として女性修復師チームを率い数多くのメゾンブランドから指名を受ける。メディアにも度々取上げられており、質店・ブランドリサイクル店にとっては駆け込み寺的存在。

396号(2016/07/25発行)17面

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